大判例

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東京高等裁判所 昭和62年(行ケ)70号 判決

一 請求の原因一ないし三の事実は、当事者間に争いがない。

二 そこで、原告主張の本件審決を取り消すべき事由について判断する。

1 まず、化合物自体について判断する。

本願発明の要旨が本件審決認定(請求の原因三1)のとおりであること、引用例に本件審決認定の事項(同三2)が開示されていること、本願発明の化合物と引用発明の化合物とは、立体配置に関する点を除いて化学構造上変わるところがないこと、本願発明の化合物が、より親水性の光学的対掌体混合物「ジアステレオマー型A」であるのに対し、引用発明の化合物はその点が明らかではない点で一応異なることは、当事者間に争いがない。しかし、引用例に示された前記化学構造を有する化合物には不斉炭素原子が二個存在することは自明であること、この種化合物には光学的に活性な立体異性体が四個存在することは化学常識であること、その四個は二組の鏡像体であるエリスロ型とスレオ型のジアステレオマーを含んでいることも周知であること、一方、本願発明の化合物のジアステレオマー型Aはエリスロ型又はスレオ型のいずれかの型を示す光学的対掌体混合物の一つであることは、いずれも当事者間に争いがなく、しかも、本願発明の化合物と引用発明の化合物とは、立体配置に関する点を除いて化学構造上変わるところがないことは前叙のとおりであるから、化合物自体をみた場合、引用発明の化合物には本願発明の化合物のジアステレオマー型Aも含まれていることは明らかである。

2 次に、殺菌作用について判断する。

引用例に、<1>引用例の前記式(Ⅰ)の化合物が殺菌作用を示す一般的記載があること、<2>引用発明の化合物のエリスロ型とスレオ型の混合物についての殺菌効果が示されていること及び<3>本願発明の化合物と極めて類似した化合物についてエリスロ型とスレオ型についても殺菌作用のあることが記載されていることは、当事者間に争いがない。

しかしながら、成立に争いのない甲第五号証によれば、引用例には、引用発明の化合物について、エリスロ型、スレオ型のそれぞれが単独で殺菌作用を有する旨の記載はないことが認められる。

ところで、一般に、不斉炭素原子を持つ化合物において、光学的対掌体同士又はジアステレオマー同士の間では活性に強弱のあること及びジアステレオマーの混合物に殺菌作用が認められる場合には、ジアステレオマーの混合物を構成するエリスロ型及びスレオ型の双方のジアステレオマーのいずれにも殺菌作用が存在するということが化学常識に属するものではないことは、いずれも被告の自認するところである。

そうであれば、引用例に本願発明の化合物のジアステレオマー型Aについて殺菌作用のあることの開示があるというためには、引用発明の化合物についてエリスロ型及びスレオ型がそれぞれ単独で殺菌作用を有する旨引用例に記載されていなければならないと解すべきである。

そうすると、引用発明の化合物についてエリスロ型及びスレオ型がそれぞれ単独で殺菌作用を有する旨の記載は引用例にはないことは前叙のとおりであるから、前記<1>ないし<3>の当事者間に争いのない事実の存在をもつて本願発明の化合物について殺菌作用のあることが引用例に開示されているとすることはできない。したがつて、右<1>ないし<3>の事実の存在を主たる根拠とする被告の主張は採用できず、右と異なる本件審決の認定判断は誤りといわなければならない。

3 したがつて、結局、本願発明と引用発明とが同一とした本件審決の判断は誤りに帰するので、本願発明は引用発明と同一であることを理由に、特許を受けることができないとした本件審決は違法として取消を免れないものである。

三 以上のとおりであるから、その主張の点に判断を誤つた違法があることを理由に本件審決の取消を求める原告の本訴請求は、その余の主張について判断するまでもなく理由があるのでこれを認容することとする。

〔編注〕本願発明の要旨は左のとおりである。

活性成分として式

<省略>

(式中、Xはハロゲンまたはフエニルを表わす)のトリアゾリル―O、N―アセタールのジアステレオマー型Aを含む殺菌剤組成物

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